12月の記憶


仕事から帰って部屋で小説を読んでいたら、ふと去年のクリスマス辺りに友達と二人で飲んだ時のことを思い出した。
何でそんなことを思い出したのかはよく分からない。たまたま読んでいた小説にバーで酒を飲むシーンが出てきたせいかもしれないし、あるいはその時と同じような境遇で同じような気分になっているせいかもしれない。


去年の12月24日の夜、僕は大学の友達と二人で中野の小さな個人レストランで酒を飲んだ。彼とは大学の1年以来の付き合い*1で、何でクリスマスイブに中野で二人で飲むことになったかは忘れてしまったけど、とにかく僕らは中野の飲み屋街を歩いて、気分的なものもあったせいか、見つけたレストラン(というよりは洋食屋さん)に入って、ワインを飲むことにした。


肉料理を頼んでビールを何杯か飲んで、それからグラスワインをまた何杯か飲んだ。若いマスターとその母親でやっているらしく、店内には僕らの他に子供連れの家族が一組いるだけだった。
父親はワインかビールにすっかり酔っぱらって顔が真っ赤で、それを奥さんがなだめている風だった。子供はまだ小さく小学生にもなっていないくらいで、酔った父親を見てキョトンとしていた。


ぼんやりと酔った頭で、何となく家族ということを考えていたのかもしれない*2。店には僕らとその家族しかいなかったせいで、その父親と幾つか話をした。
どこに住んでいるかは忘れてしまったけど、父親は中野辺りではよく飲んだりすると言っていた。高円寺はあまり知らないと言うので、ちょうど持っていた僕がたまに行く高円寺の小さくて気のきいた飲み屋の名刺を渡すとやけに感謝された。奥さんの方は「本当にすいません」と言っていたが、内心飲み屋の名刺なんかを夫に渡して欲しくないんじゃないかなと思った。


多分、その家族が先に店を出たと思う。それから僕らも幾らか飲んで店を出て、友達と別れた。特に何があったわけじゃないけど、その家族のこととその酔っぱらった父親のことをふと思い出した。
彼がその後、その高円寺の店に行ったかは知らないし興味がないけど、ただ、あの瞬間、あの家族と父親を見た時、心に浮かんだ何かがまだぼんやりと僕の心のどこかに留まっている。

*1:僕の現存する数少ない友人の一人なわけだけど。

*2:それが思い出した理由なのかもしれない。